裏側矯正とは?
裏側矯正とは、矯正装置を歯の裏側に装着する治療法です。矯正装置を歯の表側に装着する従来型の治療法(表側矯正)とは異なり、口を開けても矯正装置が露出することがありません。審美的な理由などから目立たない矯正法として多くの治療例がある矯正方法のひとつです。この裏側矯正は「舌側矯正」「リンガル矯正」とも呼ばれています。
こんな人に向いている
- 人前に立つ仕事なので目立ちにくい方法で矯正したい
- 突出している上の前歯(出っ歯)を矯正したい
- 矯正治療中に虫歯のリスクを減らしたい
- 八重歯がでこぼこした歯並びなので表側矯正に抵抗がある
- 表側矯正は食べ物が挟まるので避けたい
- スポーツや運動の制限を受けない矯正法を選びたい
裏側矯正の
メリット・デメリット
裏側矯正には、矯正治療中であることを気づかれにくい、虫歯になりにくいといったメリットがあります。一方、表側矯正と比べて費用が高い、治療期間が長くなる場合があるといったデメリットもあるので、その両面を見ておく必要があるでしょう。以下で、裏側矯正のメリット・デメリットを解説していきますのでチェックしてみてください。
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メリット
- 矯正装置が外から見えにくい
- 適応できる症例が多い
- 表側矯正と比べて虫歯になりにくい
- 出っ歯の治療に向いている
- 表側矯正に比べてスポーツ時の怪我といったリスクが低い
- 表側に装置がないため矯正の効果を実感しやすい
裏側矯正の代表的なメリットは、矯正をしていることが周りに気づかれにくいことです。矯正装置を歯の表側に装着する表側矯正とは異なり、裏側矯正は文字通り矯正装置を歯の裏側に装着するため、外からは見えにくく、口を大きく開かないかぎり、他人に気づかれる心配はほとんどありません。そのため矯正中であることを周囲に知られたくない方や、接客業や営業など人と話す機会の多い方に適した矯正法です。
裏側矯正は、歯列不正における様々な症例に適用可能です。表側矯正の適応症例はほとんどカバーできるほか、全顎矯正だけでなく部分矯正の方法としても適しています。また前の歯は裏側(リンガル)矯正、下の歯は表面(ラビアル)矯正と組み合わせて治療する「ハーフリンガル矯正」という治療法を選ぶこともできます。なかには適用が難しいケースもありますが、裏側矯正が可能かどうか、治療実績が豊富な歯科医に相談してみることをおすすめします。
裏側矯正は、表側矯正と比べて虫歯になりにくいことも、メリットのひとつに挙げられます。歯に装置を付けて矯正する場合、歯磨きがしにくくなり、装置の周辺に歯垢が蓄積し虫歯や歯周病が発生しやすくなりますが、歯の裏側は唾液の量が多いため、唾液成分の働きによって虫歯菌の増殖を防いでくれると言われています。そのため、矯正中に虫歯治療が必要になるリスクをおさえられます。
裏側矯正は、上顎前突など前歯が前に突き出る、いわゆる「出っ歯」に効果的とされている矯正法です。出っ歯になる原因は諸説ありますが、その一つに、歯の裏側から舌で前歯を押し出そうとする「舌癖」があります。裏側矯正では装置を歯の裏側につけるため、舌で歯を押し出す癖を抑制する効果が期待できるとされています。出っ歯だけでなく、八重歯などでこぼこした歯並びの場合でも、部分矯正で対応可能な場合もあります。
裏側矯正は表側矯正に比べて、スポーツ時の怪我のリスクが低くなります。表側矯正の場合、歯の表側に装置があるため、激しい運動で外力や衝撃を受けた際に口元に怪我をしやすいため制限を受けてしまいます。その点歯の裏側に装置がある裏側矯正であれば、そのリスクを低減させることができます。矯正中でも運動やスポーツをしたい方は、表側矯正より裏矯正のほうが適しているといえるでしょう。
矯正の効果を実感しやすいという口コミなども見られます。表側矯正の場合は、装置に遮られているため歯並びが改善されていく経過が確認しにくいですが、裏側の場合は矯正装置で歯の表面が覆われないため、歯並びが整っていく様子を視覚的に確認しやすい傾向があります。矯正治療のモチベーションが上がりやすい治療法と言えるかもしれません。
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デメリット
- 表側に比べて費用が高い傾向にある
- 治療期間が長くなる傾向にある
- 発音・食事・歯磨きに支障が出ることがある
- 常に自分の舌が装置に触れていることが気になる
- 治療経験豊富な医師を選ばなければならない
裏側矯正の代表的なデメリットとしていちばんに挙げられるのは、表側矯正に比べて費用が高い傾向にあるという点です。歯の裏側は形状が複雑で滑らかでないため、患者さん一人ひとりに合ったオーダーメイドの装置を製作しなければなりません。そのため、技術的な難易度が高くなり、費用も高くなってしまいます。部分矯正にしたり、下の歯をや奥歯を表側矯正にしたりして、費用を抑えることは可能です。
裏側矯正は表側に比べて、治療期間が長くなる傾向にあります。個々の患者さんの歯並びに合わせたオーダーメイドの装置をつくるのはもちろん、形状が複雑な歯の裏側は施術がしにくい場合があることと、裏側矯正は表側矯正に比べて弱い力で歯を移動させていく治療法であることが治療期間に影響するとされています。 ただし、裏側矯正のノウハウも積み重ねられてきていますので、多くの症例を経験している歯科医師であれば、表側矯正と大きく変わらない治療期間で対応してくれるはずです。
徐々に慣れていくことではありますが、裏側矯正の装置をつけてしばらくの間は、食事がしにくいと感じることがあります。また、マウスピース矯正のように好きなタイミングで装置の取り外しができないため、食後の歯磨きもしづらくなります。さらに、口の中に装置をつけると口内炎が発生しやすくなったり、発音障害が出たりする可能性もあります。
歯の裏側に装置をつける裏側矯正は、外からは見えにくい反面、常に自分の舌が装置に触れている状態にあるため、そのことに違和感を感じることがあるかもしれません。個人差はありますが、装着してから1~2週間程度は特に違和感を感じるはずです。歯並びや症状によって治療期間は異なりますが、矯正装置とは数ヶ月から2年程度の付き合いになります。長い期間ストレスが続くようであれば、異物感や違和感を緩和する方法がないか、担当医に相談してみましょう。
歯の裏側の治療は表側の治療と比べて処置がしにくく、歯の状態が確認しにくいという特徴があります。そのため裏側矯正の治療経験が豊富な医師でないと、正しく歯を移動させる治療ができない可能性があります。矯正装置同士の距離が近くワイヤーなどの調整にも高度な技術が必要。したがって難易度の高い技術を提供できる医師に治療してもらうのが理想です。
裏側矯正を行うためには矯正治療の中でも特に高い技術と経験が必須となるため、裏側矯正による治療が得意ではない歯科医がいるのも事実です。専門性が高くなればなるほど、治療費が高額になるというのは致し方ありません。矯正治療に関する口コミなどを確認してみて、裏側矯正の技術が高い歯科クリニックや歯科医師を探してみることをおすすめします。
総括:裏側矯正を考えている人へ
裏側矯正を受けたいと考えている方は、上記で説明したようにメリットだけでなくデメリットもあることを理解したうえで、通いやすさやどれくらいの費用がかかるのかも含め優先順位をつけて、歯科クリニックを探していきましょう。
繰り返しになりますが、矯正治療は費用が高く治療期間が長いという患者に大きな負担がかかる施術です。知識がないからと言って歯科医師に言われるまま治療を決めるのではなく、ある程度ご自分で知識を得てからカウンセリングや診察に臨んでください。
こんなはずではなかった、想像していた仕上がりにならなかったと別の矯正専門歯科の扉をたたく、という結果を招かないためにも、複数の歯科クリニックでカウンセリングを受けてみるとよいかもしれません。
裏側矯正の種類
裏側矯正(リンガルブラケット矯正・舌側矯正)には、大きく分けて2つの種類があります。
フルリンガル
フルリンガルは、上下共に歯の裏側に「リンガルブラケット」と呼ばれる矯正装置をつけて歯並びを調整する方法です。装置全体が“フル”に歯の裏側に装着されるため、目立ちにくく、人目を気にせず矯正ができます。モデルや接客業など、人前に出る仕事をされる方におすすめです。
ハーフリンガル
ハーフリンガルは、文字通り「半分(ハーフ)」だけ裏側矯正、残り半分は表側にする矯正法です。具体的には、目立ちやすい上の歯には裏側装置を装着し、比較的目立たない下の歯には表側装置をつけて治療を行います。フルリンガルに比べて周りに気づかれやすいですが、舌が装置に当たりにくく発音がしやすいなどのメリットがあるほか、歯の色に近い白いブラケット&ホワイトワイヤーの使用により、表側のステルス性を高めることもできます。
裏側矯正とそのほかの矯正方法の違い
裏側矯正と表側矯正・マウスピース矯正をそれぞれ比較してみました。
裏側矯正と表側矯正の違い
目立ちやすさの違い
表側矯正の場合は、歯の表面に装置をつけるため目立ちやすいですが、裏側矯正は歯の裏側に装置をつけるため、周りから気づかれにくいという顕著な特徴があります。
適応症例の違い
極端な差はありませんが、一般的には表側矯正より裏側矯正のほうが適応症例の範囲が狭いといわれています。歯並びがデコボコ状態の叢生(そうせい)や噛み合わせが深い重度の過蓋咬合(かがいこうごう)などの場合は、裏側矯正より表側矯正のほうが適しています。
治療技術の違い
裏側と表側では、技術的な難しさにも違いがあります。比較的形状が滑らかな表側に比べて裏側は形状が複雑なため、歯列に合わせて装置を取り付ける際の技術や装置調整の難易度が高い傾向があります。
費用の違い
表側矯正に比べて裏側矯正は技術的な難易度が高く、治療期間も長くなることが多いため、裏側のほうが表側より費用が高くなりやすい傾向にあります。
裏側矯正とマウスピース矯正の違い
着脱に関する違い
マウスピース矯正の場合は自分の好きなタイミングで装置を取り外しできますが、裏側矯正は自分で装置を取り外すことはできません。
目立ちやすさの違い
マウスピース矯正は歯の表面に装置をつけるため他人に気づかれる可能性がありますが、裏側矯正は歯の表面にはなにもつかないため、マウスピースに比べて周りに気づかれる可能性は低くなります。
衛生面の違い
マウスピースは取り外し可能なため、歯磨きがしやすいですが、裏側矯正は装置をつけたままでブラッシングすることになるため、口腔衛生の観点でいえばマウスピース矯正のほうが優れています。ただ、裏側矯正の場合は装置が唾液による抗菌作用が働きやすいとも言われています。
食事の違い
装置を自由に取り外せるマウスピースの場合は、いつも通りに食べられますが、裏側矯正は装置がついたままなので、食べにくいと感じることがあります。
適応症例の違い
対応できる症例では、マウスピースは軽度の歯列不正がメインですが、裏側は軽度~重度にも幅広く対応できます。
裏側矯正による治療の流れ
矯正後の理想的な状態を模型で作り、その模型に基づいて歯科技工士が「コア」と呼ばれる部品を作成します。この「コア」を歯科医師が患者の歯の裏側に設置し、これを目印にしてブラケットとワイヤーを装着します。
裏側矯正の装置同士が近い位置にあるため、歯の動きなどを見ながら微調整を繰り返して弱めの力で歯を移動させていきます。治療が完了したら、後戻りを起こさないために一定期間の保定が必要です。
典型的な治療の流れ
1.初診カウンセリング
2.精密検査
3.検査結果と治療計画のご提案
4.ご契約・矯正治療費のお支払い手続き
5.治療・クリーニング・指導など
6.矯正装置の作成・装着
7.定期的な検診および装置の調整
8.治療終了後、保定期間に移行
裏側矯正の費用
裏側矯正の費用相場は、おおむね110~150万円とされています。ただし必ずしもフルリンガル(上の歯も下の歯も裏側矯正)による治療とは限りません。出っ歯を裏側矯正する際に奥歯だけを表側矯正にしたり、上の歯だけを裏側矯正、下の歯は表側矯正にしてコストを抑えることもできますし、場合によっては費用が安くなる部分矯正による治療が可能かもしれません。
矯正費用は歯科クリニックによって異なりますし、地域によっても異なります。さらにご自身の症状によって採用できる矯正方法も変わりますし、安ければいいというものでもありません。
歯列矯正はほとんどの場合公的保険は適用外のため、全額を自費で支払わなくてはなりません。歯の矯正は審美歯科の扱いになるため、医療控除も受けられないケースがほとんどです。先天的な疾病を原因に生じるかみ合わせの異常、発育段階にある子どもの歯列矯正など、矯正が必要と診断されれば、公的保険の適用や医療費控除が受けられる場合もあります。
美容整形などで二重整形を検討する場合と同じで、「技術が確かで費用も良心的」なクリニックが見つかれば理想的ですが、そう簡単にはいかないかもしれません。
納得がいくまで治療費の安い歯科クリニックを探したいとお考えであれば、複数の矯正歯科でカウンセリングを受けて、治療計画や治療費の見積もりを出してもらって比較するしかありません。
裏側矯正の治療期間
症状の程度に応じて治療期間が異なります。大雑把な目安として、軽度の場合には1年半程度、重度の場合には3年程度と考えておきましょう。
表側矯正に比べると、同じ程度の症状でも裏側矯正のほうが、やや治療期間が長くなることがあります。治療前に歯科医師と相談のうえ、長期的な治療スケジュールをイメージしておくようにしましょう。