歯列矯正における抜歯について
歯列矯正を行なう際、一般的には抜歯が行われます。抜歯が必要な理由、抜歯される歯の選択基準、抜歯を必要としない歯列矯正について解説します。
歯列矯正で抜歯が必要となる理由
歯列矯正を行なう際、健康な永久歯を抜かなければならないことがあります。いや、むしろ日本人における歯列矯正では、抜歯する人のほうが多いという統計すらあります。
なぜ歯列矯正で抜歯をすることが多いのでしょうか?患者第一を考えるすべての歯科医は、どんな歯科治療であれ、なるべくなら抜歯をしないで処置することが普通です。逆に言うと、歯列矯正で抜歯をすることが多い理由は、患者第一に考えた場合に抜歯せざるを得ない理由がある、ということなのです。
歯列矯正で抜歯をする理由は、結局、患者の健康を優先しつつ理想的な歯並びを実現するため。特に日本人の場合、人種的に顎の幅が狭く奥行が短い人が多いため、欧米人に比べると、抜歯して歯列矯正をしなければならない事例が多くなります。
歯列矯正で抜歯が必要なる理由を、以下で具体的に見ていきましょう。
抜歯が必要な理由①:歯の数と顎の幅のバランスを整えるため
歯列矯正によって歯をキレイに整列するには、その幅に合った顎の幅が必要です。顎の幅が狭いと歯が顎におさまり切れず、逆に歯がガタガタしてしまったり、犬歯が八重歯になって外側に飛び出したりしてしまいます。抜歯することで歯の本数を減らせば、歯と顎の幅とのバランスが整い、キレイに歯列矯正をすることができます。
抜歯が必要な理由②:歯根を正常な位置に安定させるため
抜歯をせずに、顎の幅を広げることで歯列矯正をする方法があります。ただ、顎の幅を無理に広げすぎると、矯正治療の過程で歯根が不適切な位置に移動してしまい、その結果、治療終了後に歯の神経が傷んでしまったり、歯が揺れてきたりすることがあります。顎の幅を広げる代わりに抜歯をすれば、歯根は正常な位置に安定し、治療終了後の様々な不具合を回避することができます。
抜歯が必要な理由③:第二大臼歯の機能を維持するため
抜歯をせずに無理に歯列矯正を行なうと、奥歯の一つである第二大臼歯が、徐々に斜めになっていくことがあります。第二大臼歯とは、すべての歯の中で二番目に大きな歯。かみ合わせの際には、非常に重要な役割を果たしています。この第二大臼歯の機能を確実に残すためには、他の歯を抜くことで全体のバランスを整える必要があるのです。もちろん、抜かれる歯にも大切な役割があるのですが、機能的な優先順位をつけるならば、第二大臼歯のほうが役割は大きいと判断されます。
抜歯が必要な理由④:強制終了後もキレイな歯並びを維持するため
抜歯をせずに歯列矯正を行なうと、抜歯をして歯列矯正を行なった場合に比べて、矯正終了後の歯列が後戻りしやすいと言われています。抜歯して歯列矯正を行なった場合でも、強制終了後には保定装置と呼ばれる器具を使って後戻りを防ぐようにしています。抜歯をした矯正でも歯列は後戻りする傾向があるのですから、まして抜歯をしない無理な矯正の場合は、より一層後戻りの力が強く働いてしまいます。
抜歯が必要な理由⑤:出っ歯を矯正するため
出っ歯を矯正を伴う歯列矯正の場合、出っ歯を内側へ入れるための隙間が必要となるため、抜歯を行なって隙間を作ります。抜歯をしないで無理に出っ歯の矯正を行なうと、出っ歯が収まるスペースがないため、正常な矯正ができなくなってしまいます。
以上、歯列矯正において抜歯が必要となる理由を見てみました。
なるべくならば、患者はもちろん、歯科医も抜歯をせずに矯正治療をすることが望ましいと考えています。しかしながら、抜歯をしないで矯正を行なった場合と、抜歯をしてから矯正を行なった場合とでは、矯正治療が終了した後の歯の健康状態・審美状態はまったく違ってきます。患者の利益を最優先に考えるがゆえに、多くの歯科医は抜歯をしてから矯正治療を行なっているのです。
抜歯するのはどんな歯か
歯列矯正治療に伴って抜歯が行なわれる場合、どのような基準で、どの歯が抜かれることになるのでしょうか?抜歯する歯が選ばれる基準について、ポイントをまとめました。
基本的には小臼歯が抜かれる
多くの場合、小臼歯と呼ばれる歯が抜かれることになります。小臼歯とは、犬歯と六歳臼歯との間に並んだ小さめの2本の歯。この2本のうち1本を抜きます。かみ合わせにおいては小臼歯にもきちんと役割があるものの、他の歯に比べれば優先度は落ちるため、一般的には小臼歯の抜歯が検討されることになります。
ただし状態の悪い歯は優先的に抜かれる
歯周病が進んでいる歯、著しい虫歯がある歯、神経がなくなった歯、先天的に形状が異常な歯、かぶせものをしている歯、歯質の弱い歯、歯根が短い歯などは優先的に抜歯されます。なんらかの異常のある歯は、健康な歯に比べて寿命が短いと考えられるからです。
他の歯が抜かれる可能性は?
小臼歯、または状態の悪い歯以外は、基本的に抜かれることはありません。
仮に前歯を抜いた場合、見た目の問題が生じます。奥歯を抜いた場合、かみ合わせに重大な問題が生じます。犬歯を抜いた場合、かみ合わせの誘導が上手にできなくなります。
結局は、状態の悪い歯がない以上は、小臼歯が抜かれるということになります。
同時に親知らずが抜かれることもある
親知らずが他の歯の働きを邪魔してしまう場合、または、生えている向きの問題で正常な矯正を妨げる恐れがある場合には、矯正時に親知らずも抜かれることがあります。
逆に、たとえ親知らずがあったとしても、矯正治療には特に問題がない場合には、そのまま残してかみ合わせに参加させます。
過剰歯が見つかったら必ず抜かれる
歯茎の中に埋まっていることがある余分な歯のことを、過剰歯と言います。過剰歯を残したまま矯正を行なうと、正常な仕上がりにはなりません。よって過剰歯を見つけたらすぐに抜歯することになります。
抜歯しない歯列矯正について
抜歯をしないで歯列矯正を行なう方法もあります。2つのパターンを見てみましょう。
顎を広げることで歯並びを矯正する
歯に力を働きかけるのではなく、顎に力を働きかけることで歯並びを矯正する方法があります。拡大床という装置を使って顎の幅を広げれば、多少の歯並びの乱れであれば、自然に歯列が矯正されていきます。この矯正法の場合、抜歯の必要はありません。 ただし顎を広げる矯正法は、まだ顎の骨が固まっていない小学生くらいの患者に適した方法。すでに顎の骨が固定している大人には向かない治療法です。また、たとえ小学生のうちに顎を広げて矯正に成功したとしても、追って生えてくる歯が大きい場合には、治療法を改めて抜歯をしたほうが良い場合もあります。
歯を削って小さくしてから矯正する
抜歯して隙間を作るのではなく、歯を削って隙間を作ってから矯正装置を装着する治療法があります。6本の前歯をそれぞれ1mmずつ削り、合計6mmの隙間を作ってから矯正する方法です。歯列の乱れが前歯だけで、なおかつ乱れの程度が軽微な大人を対象に、この方法が採られる場合があります。
抜歯を行なわずに行なわれる歯列矯正には、以上の2つのパターンがあります。
また、そもそも抜歯を必要としない歯列矯正のケースもあるので、あわせて見てみましょう。以下の条件がすべて整っている患者については、抜歯をしないで歯列矯正をすることがあります。
- 永久歯のみの中学生以上の患者に限り、奥歯の上下が正常な嚙み合わせ(互い違いにかみ合っている状態)である場合、または、上下のかみあわせのズレが2mm以内である場合。
- 永久歯のみの中学生以上の患者に限り、奥歯でかみ合わせた状態で、前歯の上下の境目のズレが2mm以内である場合。
- 親知らずを含めず、上下の歯の本数に過不足がない場合(上14本+下14本=合計28本)。
- 横顔になったとき、鼻の先端から顎の先端をつないだ線(Eライン)から、上下の唇がはみ出していない場合。
- 上下の歯並びの乱れが5mm程度など、軽微な場合。